なぜ深海魚には地震の言い伝えがあるのか?

この原稿を書くに当たって調べ物をしている時に地震がありました。

かなり大きな揺れでしたが、ニュースによると東京23区では、東日本大震災以来の震度5弱を記録したということです。

このところ、ダイオウイカリュウグウノツカイといった深海魚捕獲が相次いでいて、巨大地震の前触れ?との話題がマスコミを賑わしていることからも、地震には敏感になりがちです。

深海魚捕獲の件でも、特にリュウグウノツカイなどは古くからの言い伝えで、「これが捕れた時は天変地異が起こる」、ということが言われていて、心配している人も多いかと思います。

しかし、実際のところどうなのでしょうか?

リュウグウノツカイ
引用元:「リュウグウノツカイまた千里浜に漂着 今月6匹目 富山新聞社」

 

なぜ深海魚が網に?ここ数ヶ月の動き

今年に入って今まで(2014年1月~5月)までの間の新聞記事を調べてみると、深海魚が捕獲されたという類いの記事が20件ほどありました。

今話題のダイオウイカや、リュウグウノツカイ、その仲間「サケガシラ」、深海に生息するというサメの一種「メガマウス」、その仲間「ホテイエソ」、温帯に生息しているという「カグラザメ」等々。

いくつかの記事では、「時折はかかることもあったのだが、このところかかる量は異常ではないか」というようなことを伝えています。

島根・隠岐でまた深海魚 カレイ網にサケガシラ(朝日新聞 2月7日付)

佐渡で珍しい水揚げ続く サメとイカ(朝日新聞 2月16日付)

深海魚サケガシラ6匹が網に、環境変化?(朝日新聞 2月20日付)

リュウグウノツカイ…巨大深海魚、浮上の謎 日本海で捕獲相次ぐ(日本経済新聞 2月26日付)

希少サメ「メガマウス」、公開解剖へ(朝日新聞 4月21日付)

室戸岬沖、網に深海魚105匹 専門家「海に異変か」(日本経済新聞 4月22日付)

 

一部スポーツ紙や各種ブログなどでは、過去の事例から地震が近いのでは?との憶測が流れるなか、とあるイベントに参加した東京海洋大学客員教授である「さかなクン」が以下のように過剰な反応を諫めるような解説を行いました。

「風、海流の影響もありますが、今年は日本近海の水温が例年より低く、上層と深海の『水温の壁』がなくなり、こうした年は冬から春に深海生物が集まってくることがあるんです」(デイリースポーツ 4月24日)

 

異常気象の影響はあるかもしれないが、地震、いわゆる地殻変動にかかわるものではない、ということです。

しかし、なぜこれだけ人々が過剰ともいえる反応を示しているのでしょうか?

 

地震の予兆…「宏観異常現象」とは?

・淡路町南淡町沖合の定置網に、前月からマダイが大量にかかり、5日間で例年の約30倍に相当する約7トンの水揚げがあった。

・普段は澄んでいる海の潮が湧き上がるように茶色濁り、コノシロが無数に海面近くまで浮かび上がってきた。

・ラジオのスイッチを入れたところ、大阪生駒から送信されている毎日放送が強いノイズで受信できず、不思議に思いながらそのまま走行を続けている間に、ノイズレベルも上昇を続け、5時46分本震に遭遇。

・夜明け前の空が一面に強く光るのを見た直後に大揺れとなった。

(力武常次著:『予知と前兆』近未来社より抜粋)

 

これは、1995年1月17日に発生し、死者・行方不明者6437人を出した阪神・淡路大震災前後に起きたとされるものです。

このように、特定の地震観測機器によらず、人間が見聞きしたものや動物の異常行動などで、直感的に地震の前触れではないかと思わせるような現象を総称して「宏観異常現象」と呼びます。

この現象については、文学者としても有名な物理学者寺田寅彦博士(1878-1935)から始まり、末廣恭雄東大教授(1904-1988)や上記の力武常次東大名誉教授(1921-2004)など、数々の地震学者がその研究に取り組み、今も引き継がれている命題です。

阪神・淡路大震災でも魚の異常行動は報告されており、その点からも昨今の深海魚騒動に結びつく点はあると思います。

これ以前の地震においても同様の現象は確認されています。

下記は関東大震災(1923)の直前起きたことだといわれています。

漁師が漁業近くでタラ科の深海魚がたくさん死んで浮んでいるのを見つけた。なにか変事があるに違いないと思い、すぐ陸に引き返したところ、まもなく地震発生した。

(亀井義次著:『地震の起こるとき』ダイヤモンド社より)

これらの原因は現代でも明らかになっていませんが、地磁気、電磁場の変化、海水温や塩分濃度の変化などを動物が人間より敏感に受取り、何らかの行動を起こすのではないか、という仮説があります。

これらの事象について、江戸時代やその前についても学者は調べていますが、古い時代になればなるほど、言い伝えの要素が多くなり科学的な合理性に基づいた検証が難しくなってくるといいます。

ただ、かってトロイア遺跡を発掘したシュリーマンの例を挙げるまでもなく、言い伝えといって馬鹿にすることもできないのが一方にあります。

そうすると、魚、特に深海魚に限って地震の言い伝えが多いのはなぜなのでしょうか。

 

人魚伝説と地震の関係

最近よく網にかかったり、浜に打ち上げられたりするという「リュウグウノツカイ」ですが、人魚のモデルとなったという逸話があります。

西洋では「マーメイド」のイメージで知られていますが、日本での人魚はかなり妖怪チックに伝わっているものが多いようです。

鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』より「人魚」
引用元:ウィキペディア「人魚」

これは中国の影響、特に漢時代に編纂されたという地理書「山海経」との関連が深いという研究結果も出ています。

山海経」は、最古の地理書とも呼ばれ、古代中国の動物、植物、鉱物などについて様々な記述がなされていますが、空想上のものと思われる動植物の記述がかなりの部分を占めており、神話書の扱いも受けている史料です。

当時から中国の文化的影響を受けていた日本は、自国のあらゆる学問書を編纂する際にもこれらの影響を多分に受けていました。

初めて人魚の記述が出てくるのは「日本書紀」の中で、その時点では「人魚」という名はつけられていませんでした。

その後、数々の書物を経て今に至りますが、往々にして人魚の扱いは、凶兆をもたらすものとの見方が大半でした。

特に、鎌倉時代以降その流れが顕著になり、『慶長見聞集』という後北条氏についての逸話をまとめた史料においては以下のように記されてるといるということです。

『当時人魚の出現は、大事件が発生することから凶兆とみなされ、津軽や秋田の海岸に人魚が流れ着くと、そのつど鎌倉幕府に報告され八幡宮で祈祷が行われている。』

(九頭見和夫福島大名誉教授『江戸時代以前の「人魚」像』より)

また、江戸時代の書『諸国里人談』(菊岡沾凉)においては、具体的に地震との関連と思われる記述があります。

『若狹國大飯郡御淺嶽は魔所にて、山八分より上に登らず、御淺明神仕者は人魚なりといひつ たへたり。

寶永年中乙見村の獵師、漁に出けるに、岩のうへに臥したる體にて居るものを見れば、頭は人間にして襟に鷄冠のごとくひら/\と赤きものまとひ、 それより下は魚なり。

何心なく持たる櫂を以打ければ則死せり。

海へ投入て歸りけるに、それより大風起つて海鳴事一七日止ず。三十日ばかり過て大地震し、御 淺嶽の火元より海邊まで地裂て、乙見村一郷墮入たり。

是明神の祟といへり。』
引用元:「人魚の話 南方熊楠」より

若狭国(今の福井県)の漁師が岩場の上にいた人魚を見つけたが、何となく持っていた櫂で叩いたら死んでしまった。

その死骸を海に捨てたところ、それから30日たったところで大地震に見舞われた…という内容です。

これらの記述にある「人魚」は、恐らく「リュウグウノツカイ」ではないか、という説が多くあります。

しかし、最近ではたまたま迷い込んだアザラシだったのでは、とか他の動物であったという説も出てきているそうです。

ただ、いずれにしてもいえることは、当時の人々にとって「リュウグウノツカイ」といった深海魚であろうと、アザラシのような動物であろうと、普段目の当たりにしていないものが目の前に現れたら、それは「人魚=凶兆をもたらすもの」と見えてしまう、ということです。

特に深海魚は現代の私たちが見てもグロテスクで、情報など持っていない当時の人からみれば、十分に異界のものに見えてしまったことでしょう。

 

このように、古くからある未知なるものへの畏怖、いわゆる「人魚伝説」が形をかえて現代まで言い伝えとして語り継がれているのではないでしょうか。

しかし、現実に目の前で捕獲されている深海魚たちは、地震とはいいませんが、何らかのメッセージは秘めているのではないでしょうか。

ある海洋センターによると、捕獲した深海魚を解剖したところ、コンビニのビニール袋やペットボトルのキャップが大量に腹の中から出てきたといいます。

地震という天災を心配するのはもちろん大事ですが、この彼らが発する無言のメッセージがもたらしている意味を考えることも重要なのではないでしょうか。


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