なぜAppleは開発拠点を日本に置こうとしているのか?

それは異例の発表ともいえました。

安倍首相演説
(出典:スマホアプリ最新情報より)

2014年12月9日、衆議院議員総選挙の演説で埼玉県さいたま市を訪れていた安倍晋三首相が、街頭でこう切り出したのです。

「アップルが最先端の研究開発を日本ですると決めた。もうじき正式に発表になる。アジアで最大級の研究開発拠点を日本に置く」

2014年12月9日 日本経済新聞記事より)

当のAppleからはまだ正式な発表はなく、いわゆる「フライング」の感も否めませんが、新聞各紙は大きくこれを伝えました。

この安倍首相演説をうけ、Appleがステートメントを出したのが日本時間で同日20時過ぎ(現地時間3時頃)です。

発表されたステートメントでは、「テクニカル・デベロップメント・センター」を横浜・みなとみらい地区に置くということです。

またこれにより

「日本での事業がさらに拡大され、数多くの雇用創出にもつながる」

2014年12月9日 日本経済新聞電子版より

としています。

Appleが米国外に開発拠点を置くのは初めて、という報道が多いですが、台湾やイスラエルに拠点が存在するとの情報もあり、真偽のほどはあきらかではありません。

ただ、それでもアジア地域では最大拠点となるということで、Appleファンのみならず各界で期待が高まっています。

 

日本で何を開発する?~医療関係ツール~

Appleが唯一発表したステートメントは上記のものだけで、日本語サイトにおいては全く触れられてない状況です。

その後の追加発表は特にないようで、Appleは沈黙を守っています。

その間、各報道機関はこの拠点の意義について、日本の技術取り込みを狙っているという点では一致しているものの、具体的にどうするのか様々な推理合戦を行っています。

Applewatch01

日本経済新聞では「ヘルスケア」をキーワードに、iPhoneやiPad、そして来年発売予定の腕時計型ウエアラブル端末「アップルウオッチ」と医療分野の連携を目指している、と指摘しています。

実はアップルは、すでに神奈川県で、健康関連の連携策を進めている。

県は10月から、個人の血圧や血糖値といった大量データを産官学で蓄積し、新たな健康 関連サービス創出につなげるプロジェクトを開始。

日立製作所、富士通、タニタなどと一緒に、アップルは推進組織に名を連ねる。

(中略)

来年、アップルは健康管理機能がついた腕時計型ウエアラブル端末「アップルウオッチ」を発売する。

健康管理分野のサービスを広げるにあたり、足がかりを横浜に得ようとしているようだ。

2014年12月11日 日本経済新聞電子版より)

あらゆるメディアで発売前から既に注目を集めている「アップルウオッチ」ですが、ウェブサイトをみてみると、確かに「健康管理」に関するツールを搭載していました。

それも、よくある「万歩計」程度ではなく、「心拍センサー」といったより高度な管理ツールです。

これ以外にも健康管理に関するツールを準備しているという情報があり、iOSなどにも組み込んでいく意向も示唆しているといわれています。

既に、アメリカでは大手有力病院と連携して、Appleの端末で収集したデータを医療分野で活用できるような取組を進めています。

日本の場合には、様々な法規制があり(「医療行為」としての縛り)、一気に動くのは現状では困難なところがあるのも事実です。

しかし、そこで注目されるのが、今回拠点が設置されるのが「横浜」ということです。

 

成長戦略とのリンク~政府の面目~

横浜みなとみらい

民主党政権下の2010年6月に閣議決定された「新成長戦略」に基いて設定された「国際戦略総合特区」。

将来的に発展有望な分野の産業について外資系企業誘致を含め集積させる。

そして、国際的な拠点を構築しそこから日本全体の成長につなげていく、という経済政策です。

今回Appleの進出先として取りだたされているのが、神奈川県横浜市から川崎市に至る一帯「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」と呼ばれる地域で、2011年12月に国際戦略総合特区に認定されました。

首相官邸HP内に掲載されている同区の説明文をみてみると、

個別化・予防医療時代に対応したグローバル企業による革新的医薬品・医療機器の開発・製造と健康関連産業の創出

(首相官邸・内閣官房地域活性化統合事務局HPより)

を目標としているとしています。

そのため、あらゆる先進医療への優遇措置が検討されており、これに伴い法規制の緩和への期待も高まっています。

Appleとしては、この点に注目したものと思われます。

ここを足がかりに、「高齢化」に向かう日本での膨大かつ貴重なデータと、日本の先進技術を取り込んでいこう、という戦略です。

この特区については、2011年当時の民主党政権下で認定されたものですが、2014年6月に現在の安倍晋三・自公連立政権もこれを引き継ぎ「成長戦略」の一つとして事業を推進しています。

この「Apple進出」の報により、政府は「戦略特区」の有用性(メジャーな外資系企業はちゃんと進出してくる!)をアピールできます。

さらに、時期的(衆院選直前)にタイミングがよく、これは自公政権の成長戦略の成果である、というアピールにもつなげられます。

進出して研究を行う内容が「医療分野」ということも、2014年世界中で感染症の恐怖がクローズアップされたことを受ければ、注目や期待が集まることはあきらかです。

まさに、政府としては「面目躍如」といったところでしょうか。

 

Appleユーザーの牙城、「Japan」

ちなみに、同地域にはスマートフォンの分野で販売競争を繰り広げている、韓国・サムスンの研究施設が既に存在しています。

サムスン日本研究所

ただ、内容的には医療分野に特化しようとするAppleとは異なり、半導体から光学機器、モバイル機器のバッテリーとなるリチウムイオンなどの材料分野、家電・エレクトロニクスといった幅広い分野での研究を行っているようです。(サムスン日本研究所HPより)

スマートフォン分野に経営資源を集中してきたサムスンですが、中国の北京小米科技(シャオミ)といった新興メーカーが急速に力を伸ばしており、特に途上国市場でのシェアを大幅に減少させています。

iPhoneほか

日本国内においても、主力機「GALAXY」シリーズはアップルの「iPhone」に太刀打ちできず、苦戦を余儀なくされている状況です。

2014年1月に調査会社カンター・ジャパン社が発表した調査結果によると、サムスンが採用しているAndroid OSのスマートフォンとiPhoneのシェアにおいて、日本は30.1%:69.1%とiPhoneが倍以上のシェアを確保していることが判明しています(株式会社カンター・ジャパン「2013年9月から11月のスマートフォン販売シェア調査」より)。

2014年の各月携帯販売台数をみても、事実上、iPhoneとソニーのXperiaやSHARPのAQUOS PHONEなどの日本勢との対決状況が続きました。

「GALAXY」シリーズがベスト10内に登場したのは6月から7月にかけての約1ヶ月ほどのみで、同じ韓国勢のLGがGoogleと共同開発した「Nexus」が9月に登場した程度となっています(IT media mobile 「携帯販売ランキング」より)。

日本は本家米国の次に、Appleユーザーの多い国として知られています。

そんな「親Apple国」に進出するには、ある種当然の流れとも考えられます。

さらに偶然の一致か、実は日本の医療関係者はAppleユーザーが多い、ということがあります。

iPhoneブレイク前のAppleの主力商品(実際には今でもそうなのではありますが……)は、独自のコンセプトとデザインを誇るパーソナルコンピュータ「Macintosh」でした。

Macintoshのユーザーに医療関係者が多い、というのは昔からのAppleユーザーには有名な話です。

医師

このことからも、日本の医療関係者の、いわゆる現場のデータがMacintoshに集積されている、という期待が少なくともあったとはかんがえられないでしょうか。

また、現在Windows系で業務を行っているとしても、かつてMacintoshでの業務を行っていた医療関係者が多いとなれば自然とコミュニケーションの進み具合も違ってくると思われます。

このような、土台の存在がきっかけとなり、Appleの進出決定が促されたのではないでしょうか。

 

ライバルといわれるサムスングループは、米・ラスベガスで行われた家電見本市「CES」で、下降気味のスマートフォン事業について絞り込みを行うとともに、次世代戦略としてインターネットと家電・自動車・インフラなどとの融合「インターネット・オブ・シングス(IoT)」を推進する、と宣言しました。

Appleが日本で行おうとする研究も、これらとは無縁ではありません。

医療を含めて、あらゆる公共サービスがネットに融合していくという世界の趨勢は止めようがない状況になっています。

家電といった「日常生活」から攻めるサムスン、医療といった「福祉」から攻めるApple。

今回受け入れる日本は、ただこれらの競争を傍観するだけでなく、「戦略特区」としての強みを生かしつつ自国の活性化につなげるような施策を行う必要があるのではないでしょうか。


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