なぜバターが不足しているのか?

バターその1

一時スーパーや小売店の店頭からバターが消えたことがありました。

あったとしても「高い!」と思うような価格でした。

クリスマスというイベントを前に、ケーキやスイーツの原料として欠かせないバターが確保できなくて各地から悲鳴が上がっていました。

政府や業界団体等が慌てて対応したことにより、何とか最悪の事態は免れそうですが、今回の騒動はどうして起きたのでしょうか?

 

「バター不足」は今年だけではなかった?

今回の「バター不足」に対しては、まず国が5月に7千トン、9月に3千トンの緊急輸入を行いました。

また、農林水産省から業界団体やメーカーに対する増産要請が行われ、主要メーカー4社を中心に33%増産することが決定しました。

クリスマス前にバターの品薄解消へ 農水省要請受け大手4社が緊急増産

農林水産省は4日、家庭用バターの品薄に対応するため、大手メーカー4社に要請し、12月の供給量を11月比で約33%増加させると発表した。(中略)

メーカー4社は雪印メグミルク、よつ葉乳業、明治、森永乳業。農水省が先月、メーカーに供給を増やすよう求めていたのに応じ、4日に報告した。4社は2015年1月以降も安定供給に最大限努力すると説明した。

産経ニュース2014年12月4日付より抜粋

 

何とか肝心のクリスマスには支障が出ずに済みそうな感じですが、今回は「クリスマス直前」ということで大騒ぎになったということも否定できないかもしれません。

忘れている方も多いかもしれませんが、実は「バター不足」は今年の、2014年11月から12月の、この時期に限ったことではありませんでした。

ここ数年では2008年、2011年、2012年にも発生しています。

2011年や2012年などは「東日本大震災」の影響、ということが思いつくところでしょうが、では今年や2008年はどうして不足にいたったのでしょうか?

 

 似ている?2008年と2014年

まず、今年2014年ですが、概ね以下のように報じられています。

原料となる生乳の生産量減少

14年度は昨夏の猛暑の影響で乳牛の乳房炎が多発したことも響き、4〜10月の生産量は前年同期比で2.4%減少している。

飼料の高騰

酪農家の減少

14年の酪農家の戸数は全国で約1万9000戸と、95年から半分以下に激減している。

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への不安

乳製品の輸入が拡大するとの不安も根強い。

農水省は「来年度の予算を大幅に増やすなどして、酪農の基盤強化を進め、生乳増加を図りたい」とするが、酪農家や生乳生産の減少に歯止めをかけられるかは見通せない状況だ。

(毎日新聞2014年12月4日より抜粋作成)

これに対して、2008年ですが、経済誌「東洋経済」が以下のように紹介していました。

昨年秋ごろから国内のバター不足が顕在化。しかも、この年は猛暑の影響で乳牛がバテて搾乳量が減っており、(中略)こうした状況下、トウモロコシなどの配合飼料価格の高騰で、廃業に追い込まれる酪農農家も増えている。

生乳減産で大誤算 バター不足の内情 東洋経済オンライン 2008年5月21日

 

こうみると、不足の原因は6年間変わっていないようにも思えたりします。

TPPの件を除けば、まるで同じ年の記事を見ているかのような錯覚すらおこします。

猛暑の影響や飼料価格の上昇、そして恐らく根本的原因ともいえる酪農農家の減少。

これらの要件が重なって、品不足につながっていったわけですが、前述の「東洋経済」にはそのきっかけとなった出来事について記述されていました。

 

日本人の牛乳離れと生産調整の失敗

牛乳等消費量推移

上記にあげたグラフは、91年以降の乳飲料の消費量推移を表したものです。

「牛乳」および「加工乳」は90年代以降、消費量が下降の一途をたどり、特に牛乳については10㎘もの減少となっています。

 

チーズ・バター消費量

同じ乳製品でも、チーズは同じ期間において1.5倍近い伸びをみせていますが、バターは、500グラムでほぼ横ばいの推移でした。

ヨーグルトやチーズといった「はっ酵乳」系統の製品の需要が高まる一方で、従来からある「牛乳」などは右肩下がりの状況でした。

牛乳もチーズもバターも、元は「生乳」という、乳牛の乳からつくられます。

ミルク

確保された生乳は、鮮度が命となる牛乳、生クリームへ優先的に加工されていき、バターとチーズは余りをつかっての加工となります。

いわばバターなどの生産を行うことで剰余乳を調整していた面があるわけです。

この機能はそれなりに牛乳が消費されていた頃には有効だったのですが、2006年その調整機能に支障をきたし、大量の剰余乳が処分される事態となってしまいました

生産した生乳が余り、牛乳の価格も下がりこそすれ上がることはなく、しかもその一方で飼料や各種燃料費などの高騰で、酪農農家は悲鳴をあげていました。

政府はこれに対する措置として、「減産」を指示しました。

これまで「米」などで行っていたのと同じパターンです。

乳牛を食用として市場に放出したりして、このときは何とか事態を切り抜けることができました。

これ以降「減産」による調整が基本方針として定着してしまった感があります。

しかし、対処療法のみで、根本的な問題点の解決への着手を後手にまわしたことが現在に至る事態につながってしまいました。

この2006年の出来事が起きる以前より、酪農に従事する農家は減少傾向にありました。

その動きが止まることなく、生乳を生産する牛の絶対数も減少の一途をたどっています。

酪農農家の大規模化などといった具体的対策も行われていますが、やはり絶対数という面で限界が見え始めています。

 

難しい生産調整と国際的環境

牛乳の需要が減っていて、チーズなどの需要が増えているなら、生産割合を変更していけばいいのではないか?と素人考えで思ってしまいます。

確かにそうすれば今回のような不足は起きないようにも思えます。

しかし、実際のところ2006年のようにバター自体の在庫が余ってしまった、ということも起きています。

それに何より消費量がほぼ変わらなく推移している(逆にいえば需要が予測しやすい)のに、今回のように品不足が起きるというのは、生乳の生産割り振りがいかに難しいか、ということを物語っているともいえます。

では、国内産で足りないところを輸入すればいいのでは?と思いますが、これについても簡単にはいかないところがあります。

近年の経済発展により、中国の富裕層が世界の乳製品をおさえる動きもあります。

従って必ずしも品が確保出来る保証がない、というのは何とも不安な状況にあります。

ちなみに今回の件については、確保出来る条件はあったといいます。

3月より続くウクライナ紛争で、ロシアが西側の経済制裁に対する報復として、EU産の食品輸入の停止に踏み切りました。

その結果、ロシアに輸出する筈だった乳製品が(現在も)宙に浮いている状態です。

しかし、モノはあるのにも関わらず、日本は国内農家の保護という名目から輸入制限が行われていますし、また円安のために価格面での支障も出た、と思われます。

 

「バター不足」再び?

乳製品については、国策により「国産」が堅持されています。

本来なら既に決着がついているはずのTPPは交渉がまとまらず、いつ、どうなるのかが見えない状況にあります。

そんななかで、高齢化・後継者不足などから酪農農家は減少し、乳牛の確保が難しさを増してくる可能性も捨てきれないところがあります。

また、中国をはじめとした新興国が食品を世界に求めていく流れは確実で、これからは食品を思うように確保することができなくなっていくかもしれません。

食糧安全保障という観点からは、国産堅持、すなわち、農家を育て一定以上の生産力は確保する、というのが望ましいことあるのはいうまでもありません。

しかし、一方において、貿易の自由化の流れは止められないところまで来ているのも事実です。

酪農農家の減少に対する有効な対処と輸入による安価な(しかも安全な)食品の確保体制確立。

今後、我々の知恵が試される課題となるでしょう。

品不足がまた、となるのも進歩がないみたいで、どうかとも思いますし……。


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